Ogawa Crude Laboratory

生薬と文化



生薬の知識と人々とのつながり

現代社会に生きる私たちは、風邪をひいたと思ったら病院に行きます。
診断をして、薬をもらって家でゆっくり休みます。

しかし、風邪をひいたときにこのような対処をするライフスタイルになったのは、人類の歴史から見るときわめて最近のことです。

日本の歴史のなかで意外に長かった病院も薬もなかった時代。お医者さんもいなくて、薬もなかった時代に人々はどのようにして、健康を守ってきたのでしょう。

江戸時代以前は多くの人たちが自らの健康を守るために頼るすべといえば、家の周囲や近くの山に生えている薬用植物でした。
ここですこしばかり、知っているようで知らない薬用植物について、お話ししてみましょう。

ナンテン

昔のお手洗いの周りには、ナンテンが植えられており、南天手水と呼ばれていました。字のとおり、手を清めるために使われていました。
ナンテンの葉や茎にはベルベリンといって抗菌作用がある成分が含まれており、昔の人はこのことを経験則で知っていたものと考えられます。
ナンテンの葉は赤飯の飾りにも使われます。赤飯の腐敗を抑制する成分が、余熱によって発生すると考えられており、非常に理になかった飾りであると言えます。

例えば、怪我をしたときにはヨモギの生葉を揉んですり込んだり、お腹が痛いときはヨモギを煮出してお茶のように飲まれていました。

また、傷薬としてはアオキの葉や紫蘇の葉、オトギリソウなども使われてきました。
室町時代の武将である松永弾正(松永 久秀)は家来たちのために大和の城へアオキの葉を700頭の馬に積んで運ばせたという話が残っています。

昔の話に、ある泥棒が怪我をした際に証拠を残さないように、出血をすばやく止めるために桐の葉の乾燥粉末を常備し使っていたという話が残されています。

救民妙薬


江戸時代には、時代劇でも有名な水戸光圀公の命によってこれらの薬用植物を用いた民間薬がまとめられました。この書物は、次のような書き出しで始まっています。

大君が私に命じていわるるに、いなかで貧しい暮らしをしている人たちのところには、医者もいなければ、薬もなく、これらの人たちがいったん病気になると、自然になおるのを待っているだけである。そのため、不治におわるもの、死ぬるもの、生涯の廃人となるものなどがある。これらは皆、天命ではなく、非命である。そこで、これらの人々を救うために、簡単に用いることのできる薬を集めて、これの使用法を書いてみるようにとのことであった。そこで私は身辺にある手にはいりやすい薬を集めて百九十七方あんで、救民妙薬と名づけ、山間、僻地の人々に与えることにしました。もしこの書が救民救世の一助ともなれば幸いである。

「救民妙薬」 穂積甫庵 より

生薬とは

生薬という言葉はあまり聞いた事がないかもしれません。
漢方と言う言葉を聞いた事があっても、生薬という言葉を身近なところで聞くという経験は少ないと思います。

生薬とは、薬効をもつ植物、動物、鉱物などの自然の薬のことを言います。世界各地の伝統医学でも多くの生薬が使われています。

一言に生薬と言っても鉱物から、動物由来、植物由来もの、さらには菌類が作るものまで広がっており、分かりやすいのはどくだみやヨモギなどの薬用植物があります。例えば、動物由来の生薬ではマムシを加熱して乾燥させたものや、ミミズを捌いて乾燥させたものがあります。道端に生えているタンポポの根っこといったものもいわゆる生薬の一つです。

▲桂皮(植物質)
▲牡蠣(動物質)
▲霊芝(きのこ)
▲石こう

自然から得られる生薬ですが、山に生えている薬用植物をつみとっても、それを生薬とは呼びません。収穫た物を原料として、それから不要な部分や泥などを除去したり、乾燥させたり、一部のものは加熱した後に乾燥させたものを生薬と呼びます。
このように単純な一次加工をする理由としては、薬効がない部分を取り除くため、長期保存のため、一部の生薬では加熱によって成分を変化させるといった目的があります。

生薬の歴史

日本では、薬効をもつ天然物を用いる文化は大和時代から記録があり、書物として残っている最古のものは、 古事記に火傷に貝類の黒焼きをもちいたという記述があります。
奈良・平安時代になると、中国から伝えられた漢方医学と言う分野に薬用植物や鉱物などが所謂生薬として漢方の原料に利用されるようになりました。
そういういった時代から私たちは知識を引き継いできたとも言えます。

さらに、生薬のルーツを探っていくと神農本草経という書物が残されています。また、最古の地理書といわれる山海経ではそもそもなぜ人は草根木皮に病気を治す効果を期待したのかというヒントとなるような記述もあります。
はるか昔から、人々は自然から得られるものには時として毒となるものがあり人体に有害な効果をしめすこと、そして時として毒そのものすら病気を和らげる薬となることを、多くの経験を重ねる中で知りました。

神農本草経

365種の薬物について、人体に作用する薬効の強さによって分類されています。
これは神農という古代中国の伝説上の人物が、自らの体をつかってあらゆる草根木皮の効能や毒性を試し、人々の救いとなったといわれることに由来して後人にまとめられた書物であるといわれています。

山海経

古代の人たちは病気や怪我などの災いを悪魔の仕業であると信じていました。悪魔を寄せ付けないために、見た目には気味が悪いものや、嫌な臭いがするものを身につけるようになりました。また、悪魔が体に入ったのならば身につけるのでは効果がなく、悪魔が嫌うものを体内に取り込まなければならないと考えました。
身につけることを外服(服とは身につけるという意味)、体内に取り込むことを内服とよびました。これは現代の外服薬と内服薬の由来と言われています。

小川生薬では現在、古からの伝承がある生薬を最新の技術で加工するといったことを行っています。
少し前の時代では、それぞれの家で煎じたり、いぶしてライフスタイルの中に取り入れられてきたものを、衛生管理をきちんと行っている工場で加工し、身近で手軽なカタチとしてお伝えします。

▲工場内の様子
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